PLANET GOOS[4]
~蜜浴.1~

その夜、ゴーシュは消灯を見計らい部屋を抜け出した。
ジギーが告げ口しようが構わない、と思っていた。幼馴染と新入生にアンバランスな関係を指摘され、一刻も早くラルゴに会って気持ちの真実が知りたかった。
教師の宿舎は校舎を隔てた先にある。ラルゴの部屋は一階の角、侵入者には打ってつけの場所と云える。
密会のきまりは、窓の四回ノック。
「――早く……」
ラルゴを見るまでのこの間が、ゴーシュはたまらなく興奮する。
逸る想い、期待感、その先の時間を忘れさせる甘いキス、そして名を囁くラルゴの掠れた声色、考えただけで心が震えた。
「…あ……」
ゆるやかにカーテンが引かれ人影が揺らめいた。
少年は息を呑み瞳を煌めかせる。錆び軋む窓を開き、ラルゴが顔を覗かせた。

「――先生…」
ゴーシュはたまらない気持ちで見つめている。
いつもは穏やかな笑みで少年を招き入れるのだが、今夜のラルゴは困惑気味だ。
「帰りなさい。明日の放課後、史料室においで。もしぼくが居なくても必ず行くから、待っていてくれるね」
抑揚なく伝えて、ラルゴは返答を待たず窓を閉めかける。
「明日…って、先生…どうして…?」
ゴーシュは咄嗟に窓に手を掛けた。
「明日話すよ、それだけだ。今、ここで話す内容じゃないからね」
窓枠に置かれたゴーシュの華奢な手に、ひとまわり大きな掌を重ね軽く握る。ゴーシュはラルゴの手を一瞥し、泣き出しそうな顔をした。
「ゴーシュ…」
ラルゴには辛い面だ。普段繊細さを隠し、飄々と過ごすように見られている少年の顔を歪めているのが自分か、と思うと切なくなる。
悲しませるなら身を引き、ゴーシュも同世代の少年少女に恋心をぶつけた方いい、それがラルゴ・ロイドの差し迫った末の答えだ。
彼は引き際を、模索していた。
だが少年は、ときに大人の事情を見て見ぬふりをする。
ゴーシュは踵をかけ身軽さを利用し、一気に窓枠に乗り上げ、ラルゴが阻止する間もなく教師に跳びついた。
「――なっ…!冗談だろ…!?」
少年の大胆な行動にラルゴは息を止める。
「明日にならないと話せないことなのですか!?ぼくは今じゃなきゃ嫌です」
「今って…、あ、おい、ゴーシュ…っ」
勢い任せにゴーシュはラルゴを押し倒した。窓辺にベッドがあるのは何度も訪れ見知っている。倒れ込み、ベッドがスプリングし、二人の身体が跳ね上がった。


さざめく夜風が舞い込むのも構わず、少年は縋りつき身体を持て余した。
ラルゴは応えてくれない、ともう一人の自分が告げている。

「先生……」
ゴーシュはラルゴの被りを取り囲み、腕の中に閉じ込めた。
背筋がぞっとするような、熱く真剣な暗褐色の瞳が揺れている。隠した様々な想いがそこに現われ、瞳を見ただけで、ゴーシュがどれほど恋い焦がれているか読みとれた。見据えられると、箍が外れそうで危うい。
「少年に押し倒されるなんて、ぼくも隠居が長すぎるかな。運動不足かもしれないね、デスクワークが多いから、――っ…!」
はぐらかすトークが始まり、ゴーシュはラルゴの口を塞いだ。じわじわと、どうしようもないほどの虚無感が込み上げるキスだった。無我夢中で唇を貪り自ら口を開き誘うが、やはり応えはなかった。
「…う…っ」
「ゴーシュ…、こんなことをして何になる…」
慈しんだ少年に押され、ラルゴは理性を保つのがやっとだ。
腹部からため込んだ酸素をすべて押し出すように深く息を吐き、観念したふりをして見せるしかない。
「……いい子だから、言うことを聞いてくれないかな。万が一なことがあったら、ぼくは即刻懲戒処分、免職になったらどうする?そんなことにでもなったら、学園では会えなくなるんだよ」
ゴーシュは拗ねた面で胸の上で横を向き、目に留まったラルゴの耳朶を思いっきり引っ張った。
「痛…っ、ゴーシュ…!」
「…先生、ぼくに、…嘘をつくのはやめてください…。見たんです…。BEE―HIVEの辞令書…」
「…え!?」
ラルゴはハッとして白猫もろとも半身を起こす。肩を抱かれゴーシュはついに堰を切り、啜り泣き始めた。
「いつ読んだ?ぼくはアレをどこに置いて…、ああ、あのテーブルのバインダーに…」
個室で席を外したのはジギー・ペッパーが訪れたタイミングだけ。セキュリティーの行き届いた引出しに入れて置くべきだったと悔やんでも遅い。少年にとっては未曽有の文書だったに違いない。今を生きる彼には、妹と恋する教師しか映らない世界なのだから。

「……え…っ…」
芯の強い少年ですら、恋のコントロールは難しく切迫する胸の内に涙が止まらない。
「そっか、知っちゃったんだな、少年…?」
涙を拭い、ゴーシュは頷いた。
「じゃぁ、話す必要はなくなったな。辞令に従うつもりだよ」
ラルゴはゴーシュの髪を梳き、やさしく抱き宥める。
「来年には…ぼくはもう、いない。ゴーシュがBEEになったとしても離ればなれだ。このままの関係を続けていたら、状況はきみにとっても辛くなる。ぼくを忘れるなら早い方がいい」
少年を宥めるセリフはいくらでも言えた。これ以上繋ぎ止めて、ゴーシュを傷つけたくもない。
開け放たれた窓は閉まる気配を見せず、立ち去ってくれ、と促して見えた。それを察してゴーシュはさらにきつくラルゴにしがみつく。
「…いや、だ…。嫌です、先生…」
「君はこんなに我儘だったかな…。ほら、言うことを聞いて、話は終わったよ、ゴーシュ…?」
そっと身体を離し、ゴーシュの顎を引き上げ瞳を交わさせる。ラルゴの瞳に見つめられ、ゴーシュは怯んだ。うっと息を詰まらせ、再び大粒の涙が零れた。

「ア、アリアに…、ぼくは先生に相手にされていないって…、言われたんです…」
「え…?」
「先生の…ブレスレットは…、いつか誰かに渡すものなんだろうって…。ぼくは…だから…、その対象じゃないって…。やっぱりそうなのですか…、これはぼくの片想いですか……」
「――……」
「…教えて…ください…」
狭い空間で互いに感じる捩られるような痛み。胸がヒリヒリと熱く、そして押し潰されそうだ。
「……先生…」
どういう経緯で、関係を話す切っ掛けとなったか問い質す間がない。それよりもゴーシュは本音を欲した。
禁忌を犯すと、何かが変わるのだろうか。

「――ゴーシュ・スエード……」
真実を求める少年の眼差しに射抜かれ、ラルゴ・ロイドはその名を口にした。
彼には自らラインを逸脱する、ささやかな勇気が必要だった。
甘やかな未来への約束は、ないのかもしれないが――――。


「…………ゴーシュ…」
「……っ…」
ラルゴは心のままに、ゴーシュの唇を求めた。
歪んだ想いの結界は崩落し、秘めた灼熱がゴーシュをねめつける。捕らえられ、少年はわずかな恐怖を感じたが、それは待ち詫びた瞳だ。
少年の瞳を捉え、ラルゴはそっと眼鏡を外す。クールで妖しさを秘めた瞳が露わになり、ゴーシュは生贄のように、また、焦がれたように震えた。
普段では到底想像し得ない、鋭く切れ長で神秘的な気品ある瞳。
ゴーシュだけが知っているラルゴ・ロイドの素顔は甘く、鋭敏で、それでいて悩ましい。囁く声も同種のもので、声色で陶酔させゴーシュを縛りつける楔だ。
想いの溶解を告げる決意はゴーシュも同じ。
「ぼくは、先生の気持ちが…知りたくて、消灯時間を待って…、…こ、ここに来ました、だから…、えっと…」
「――――うん…」


華奢な痩身をベッドに横たえ、ラルゴは窓を閉めた。
ゴーシュは一瞬戸惑い気を逸らしたが、すぐさま引き戻される。
「――ん…、んんっ……」
細い顎をつかみ唇を重ね、舌を忍ばせ誘われる。舌先をやわらかく擦り、甘咬みされ咥内が蕩けてゆく。
キスは慣れていた筈だったが、比べ物にならない甘やかな口づけに、ゴーシュの心臓は破裂しそうなほど脈打った。
「…はぁっ…せん…せ…」
刹那の熱はやがて穏やかになり、滑らかな頬に渡った。
頭部を掌で覆い、銀糸を掻き乱され、少年の息が上がる。首筋を舐められ、瞼の裏が夢現になってゆく。
再度軽く唇を吸われ瞼を開くと、茫洋とは裏腹の慈愛に満ちた眼差しに包まれた。
「……先生…?」
「…ゴーシュの片思いだなんてぼくは言った覚えはないよ。ぼくが片思いだって思っていたくらいだからね」
「せ、先生が…?」
ゴーシュは閉じかけた長い睫毛を開き、まどろむ瞳でラルゴを見た。
「きみはぼくの過去ばかり意識していたからな、…子供みたいだろ、ぼくは…、自分の過去に嫉妬して、ゴーシュを悲しませていたらしい。許してくれる?」
「――へ?」
気の抜けた返事にラルゴはクスッと笑う。
「覚悟が足りないぼくじゃ郵便館の館長は務まらない、……ゴーシュの気持ちも受け止めてこそ…」
「…あ」
ラルゴはそれ以上口を割らず、すらりとした白磁の首筋を吸った。
「………っ……」
耳朶を噛まれると、じわりと熱が広がるのがわかる。
あれほど触れたかったラルゴ・ロイドの心も身体も、開かれることで枯渇に陥った自分が触れて欲しかっただけだとゴーシュは悟った。
「寒くない?」
首筋を吸われながら、返事をする間もなくシャツのボタンが外され、薄い胸元に指が這わされる。
「…ぁ……や…」
ラルゴの指先が薄桜色の乳首に触れ、甘い痺れが流れた。摘まれると半身がびくびくと震えてしまう。
「…先生そこ……、や……」
「困ったな、ゴーシュは敏感らしい」
「…っ…」
弧を描き指先で撫でられ、竦みながらもラルゴを見上げると含み笑いをしていた。
「ぼくにまかせて……」
「ん…っ…」
触れられる箇所がたまらなく熱い。先端も肉芽が剥き出しになったように敏感になっている。指先で擦られ尖り、赤みを増す乳首にラルゴの唇が落ち、ゴーシュは身悶えるしかない。
「せ、せん…、あっ…あぁ……」
舌先で丹念に乳首を嬲られ、耐えられず声が上がる。ぬめる粘膜の感触に瞼を閉じ、腕は縋るものを求めて空を舞う。
「…っ…やぁ…」
ツンと固く尖った乳首に軽く歯を立てられ、腰まで快楽の痺れが伝わる。
「……あぁっ…ん…はぁ…」
全身がもどかしいほどに熱くなってゆく。行き場を探す刺激に、ゴーシュは逃げ惑いシーツを泳いだ。
「…そ、そんなに…、やっ…」
「ふふ…、やっぱり逃げ出したいかな…?シーツがもうぐしゃぐしゃだよ。ほら、ぼくにつかまっていいから…」
華奢な手首を取り首に回させると、感じるたびにラルゴの髪を掻き回す。
ゴーシュはまどろみながら蕩ける瞳でラルゴを追っている。散々焦がれた時が、一時のものと思いたくなかったからだ。
イメージに反しラルゴは愛撫しながらも、ゴーシュを見つめ微笑していた。
「……笑ってる…。先生…何が…そ…そんなに、……おかしいんですか…」
「…笑ってる…?ぼく?」
「はい…」
「うん、……ゴーシュが可愛いなぁって…」
「…………っ……」
羞恥に悶える稚い反応は、ラルゴの征服欲を刺激した。
無垢な少年にだけ潜む果実は、口にするほどに甘美な毒を増している。自ら甘い香りに誘われ口にした、ラルゴの罪は重い。けれど、それ以上に見知らぬ果実を見出した面持ちがあった。
「ぼくにキスしてごらん…。勢いに任せたあのキス、ぼくは結構気に入ったな」
ラルゴに意地悪を言われ、ゴーシュは身悶えながら弱々しく被りを振る。
出来るものなら跳びつき自分もラルゴに応えたいが、支配された痩身はけだるく更なる刺激を待ち息が上がるだけだ。
「…出来ま…せ…」
「……そう?」
ラルゴは苦笑いをし、下肢に脚を割り込ませる。
「………ぁ……」
膝が敏感な箇所に軽く触れ、思わず腰が逃げた。
反応を返され、ラルゴの膝は下肢を刺激し詰め寄る。
濃厚な快感が腰一帯に感染し、許容を超えた揶揄は少年の肢体を沸騰させてゆく。
「ぁ…あっ…あっ、やあぁ…」
膝で中心を擦られながら、未成熟の双方の先端を舌と指先で同時に愛撫され、清麗な唇から嬌声が上がる。
もう声を抑えることが出来ない。ラルゴも弱々しく上げる声を止めはしなかった。
「…ゴーシュ…」
瞼にキスをし、苦しげに閉じた目許を開くよう促す。
「――怖い?」
「…………」
「…やめようか」
ラルゴも今なら引き返せた。
だが、これ以上は、
「止まらなくなるよ…、関係も…、――気持ちも。それでも…?」
長い睫毛を瞬かせ、ゴーシュは恥らいがちに頷く。
「ぼくはきみのその顔に、弱いな…」
「……先生……」
「ん…?」
「ぼくは先生と一緒に居られるだけで幸せなんです…。だから、離れても…ぼくのこころは先生のものだって知ってほしかった。――離れたくない、先生と離れたくない。でもぼくには、先生を束縛する権利はありませんから。……いいんです…。証が貰えたら…、ぼくはそれだけで……」
「――ゴーシュ……」
ラルゴはもはや、少年のすべてに魅せられていた。
溺れてしまいたくなるほどに、ゴーシュ・スエードを愛したい、と思う。

まやかしの、光の届かない闇夜の彼方で、寵愛を望む少年とともに、氷雪に閉ざされ覆われてしまえたら。

ラルゴ・ロイドの理性と狂気の反復する想いは、ゴーシュの見し得ぬ思惑。白猫のような少年を弄ぶほど、深くなる心にラルゴのプライドは砕けた。
それはまだ、相見えぬ自分でもあった。
「愛してる…、ゴーシュ…」
「……先生…」
少年は喘ぎながらも、かすかに微笑む。
「愛してるよ…」
呟き、唇を重ね、シャツを剥ぎ取り脇腹に指を這わす。くすぐられ喉が仰け反り、触れられた箇所に再び火が灯って行く。
「…んっ…」
二の腕を上げさせ、少年の柔らかくしなやかな筋肉を撫であげる。鎧虫を倒した経験など無いような腕の柔らかさに驚き、ラルゴはあくどく歯を立てた。
「…っ」
「どうしてこんなに、柔らかいのかな、呆気なく鎧虫を倒しすぎだねぇ。……研修時間を増やそうか…?」
「や…」
組み敷かれる下で、ゴーシュはうらめしげに瞼を開いた。
「離れてると、ぼくのことばかり考える…?」
「……」
ゴーシュは切なく眉をゆがめ、微弱に首を縦に振った。
「いけないよ。君は学園のエースなんだから」
「ぼくを駆り立てたのは先生なんです…。……ぼくは…本当に…」
「うん…、解ってる。……ぼくもゴーシュのものだよ。もうずっと前からね」
「先生って、うそが下手ですね」
「信じない?」
「これから…教えてもらいます……」
「――可愛いな、まったく…」
華奢な半身を抱えながら、ゴーシュの腰に手を回しベルトを外す。ラルゴはか細い腰骨を確認し、熟れかけた下腹にためらわず指を這わした。
「…ぁ」
何気なく、するりと触れられただけで、腰が揺れてしまう。
「…せ、…先生…」
「もう子供扱いしないよ」
「え、あ、…っ…!」
細腰を引き寄せ、じわりと興奮を示すそこに触れる。
「恥ずかしい…?」
「…う…」
好奇心はあったが、ゴーシュは先が読めず怯えをみせた。
「ち、違うん…です…。今日は…まだ…、入浴して…ないから…、だから…」
「んー、お風呂か…、それは困ったねー…」
ラルゴはむしろ楽しそうだ。頬を真っ赤にした少年を覗き、すかして笑い隙を作った。
「ぼくはそのままでもいいんだけど…。ゴーシュの恥ずかしそうな顔はたまらなく可愛いからなぁ…。うーん…」
「な、何の話ですか……?」
大人の趣味嗜好は、与えられる少年にとっては早熟だ。
宙を眺め思考を巡らすラルゴの下で、ゴーシュも倣い視線を逸らす。その隙を見計られ、一気にズボンを下着もろとも脱がされた。
「…あっ…!」
咄嗟的にズボンに手を伸ばしたが、一歩遅かったらしい。醜態に焦る間もなく、ゴーシュは軽々と掬いあげられ、ラルゴに抱きかかえられた。
「タイミング良かったなぁ。ちょーど、お風呂に入ろうっと思っていたんだよねぇ」
「せ、先生…っ!」
ゴーシュの顔は真っ赤だ。全裸となった痩身までもほのかな桜色に色付きラルゴの目を楽しませ、さらに教師は上機嫌だ。
「んー、お湯をいれておいて良かった♪」
「え、…お、お湯って…」

テンションが上がったラルゴを余所に、ゴーシュは気が気じゃない。教師の首元に捲かれたやわらかなリボンを解き、丸腰の下肢を隠した。
困り果てた少年は成す術がなく、ラルゴの首にしがみつき困惑の眼差しを向ける。
「おろして下さい」
「何言ってるの、要望に応えるんじゃないか」
「…要望って、こんなことじゃ…」
鼻で笑われ、ゴーシュは肩をすくめる。
「このタイミングは最高だよ。ゴーシュと一緒にお風呂に入れるなんて、まったく考えてなかったし」
「さ、最高ですか……」
ゴーシュは絶句した。
甘い空気は息を潜め、刺客が現れたようだった。
全身を隈なく洗われ、入浴後は宥め寝かし付けられはしないかと、かつて自身が妹に施した子供めいた妄想がゴーシュの頭をかすめる。
 焦がれた甘やかな時間が入浴とともに流れてしまいそうで、少年は抵抗し華奢な脚をバタつかせ、ラルゴを押しのけようと暴れた。
「…お、お風呂だけなんて、嫌ですよ…!」
「そんなこと言ってないだろ。こら、暴れるんじゃない…っ」
ベッドルームの隣は、少年に無情なバスルーム。
ドアを引き開けるとバスタブが視界に飛び込みゴーシュを当惑させたが、それは一瞬に過ぎなかった。
「――――あっ……」
照明が淡く落された、想像以上に広いバスルームと泡立つ浴槽。室内はブルーローズの香りがし、一気に大人の世界に踏み込んだ不思議な感覚に包まれた。

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